読書の欠片ネタバレあり
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アイ・アム・デビッド  [Edit]
2005-04-11 Mon
 これは映画化されたタイトルでして、原作は60年代に出版されたデンマークの児童文学なのだそうで。日本でも最近単館で上映されてます。

 物心ついた時には強制労働収容所の囚人だった12才のデビッドは、ある日「北へ向かって逃げろ」とコンパスを渡される。自分にとって世界のすべてだった灰色の壁の中で、所長として君臨していた「あいつ」から。自由が何か、自分がどこから来てどこへ行けばいいのかも知らず、ただこのまま過ごす長い年月より一瞬の死の方がマシかもしれないと塀を乗り越えたデビッドは暗い夜を独りきりで走りながら世界と自分とを一つ一つ取り戻していく-

 内容の割に重っ苦しさはなくむしろ淡々と語られてるんだけど、西欧の児童文学とはやっぱりずいぶん違いますね。子供の頃好んで読んだ物語の少年少女たちの、虐げられてもどこか前向きだったり明るさを失わずいられる強さっていうのは基本的な愛情や楽しい記憶や信じられるものを持っているからこそなんだと。その全てを知らずに育った人間が一からそれを手に入れるのはこんなにも難しいと思い知らされる。

 一番印象的だったのはデビッドがイタリアではじめて見た風景の色、外に出てもしばらくの間世界は夜と闇ばかりだったから、それはデビッドがはじめて知った「美しいもの」で「生命」そのもの…生きることも希望の存在も知らなかった少年に無言でそれを教えてくれた風景は圧倒的ですごい説得力だったわ。

 でも自然と違って人間を理解するのはそんなに簡単にはいかないみたい。自分のことも信じる神も自分で決める生き方はたくましいと言うよりなんとも不安定で危なっかしいんだよね。道中何人もの人と出会いながら、デビッドには他者と関わることも受け容れることもどういうことか理解できない。生きるのに必要なことはひとつひとつ手探りで覚えていくけれど、愛情という基本的な感情が欠けたままだから。存在を知らないから求めることもなく、自分に欠けているものが何か知ることもできない。人との出会いが糧になるような旅路じゃなく、自分には決して手に入らない、いっそ知らないままの方が生きていけたと諦めきっている乾いた心が悲しいです。

 それでも所長が逃がしてくれた謎の中に、過去の写真の中に、自分を守ってくれた友達の中に自分に向けられた愛情の存在を知れば求めずにはいられないのが人間で、デビッドも期待はしないようにと自分に言い聞かせながら心はそこへ向かっていく。うん、求めることはきっと大事なことだと思う。欲しいと思わなければ希望も生まれない。諦めずに歩き続ければ、誰にも孤独じゃない人生が待っていると信じたい。

アイ・アム・デビッド アネ・ホルム(角川文庫)
novel | アネ・ホルム
CM:0 | TB:0 |
| 日々是好日 |
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