読書の欠片ネタバレあり
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ワイルド・ソウル  [Edit]
2006-10-25 Wed
 最近どこかでトリプル受賞してる作品なことを読んで脳内インプットしてた本。直木賞芥川賞にはあんまり食指が動かないんだけど吉川英治文学賞、日本推理作家協会賞とは経験的に好みが似てることが多いので…いやービンゴ!でした。図書館でもこの人の本は結構見かけてはいたんだけど、タイトルとか装丁でピピピと来るものがなくてスルーしてたみたい。もったいね~~(しかし今改めてみてもどれもちょい古臭い感じっつかイマイチなような…<タイトル装丁)

 南米大陸アマゾンを一人の日本人が遡っていくプロローグから二段組の第一章に、ついていけるかなとちらっと思ったのもつかの間、読み始めた途端ガツンと衝撃を受けて引きずり込まれた。1950~60年代に外務省が主幹となって行われた移民政策、緑の広がるブラジルの大地と政府が謳った入植条件を信じて太平洋を渡った何万人もの日本人たちが辿り着いたそこは、農地どころか生きていくことすら難しい未開のジャングル「緑の地獄」…彼らは「アマゾン牢人」と呼ばれ、多くがその過酷な環境下で命を落とし、何とか生き残っても文明や矜持を剥奪されて心が折れたまま諦めきった人生を送るしかなかったー

 妻と弟の3人でアマゾンの奥地に入植し、そこで全てを失った衛藤が生きてきた12年を駆け足で辿りながらも、その圧倒的な歴史的事実に体温は上がり呼吸が早くなる。それは「小説」だけれど教科書や淡々とした事実だけを読んでも分からない感情だ。何度かこういう読書体験をしたことがあるけど、久々に頭を横殴りにされた…。移民とは名ばかりの棄民政策、そのすぐ後から始まった高度成長期を謳歌する日本人たちとは全く別の次元で、別の人種として生きてきた人間たち。国に騙された怒り、人間として扱われなかった悲しみ、諦め、生き抜いても拠って立つところのない存在の満たされなさ。だけどその地獄と同じ場所で無償で与えられる救いもまたいくつもあって、そこに幸と不幸が複雑に縒り合わさった人生が浮かび上がってくるのだ。

 移民としてのあらゆる苦労を味わった衛藤と山本、二世としてアマゾンで生まれたケイと松尾。彼らが40年後の現代日本で政府と外務省に仕掛ける復讐劇と、その間にそれぞれが流転の果てに受け入れてきた人生が交互に語られる。そこにあるのはもう憎しみの感情ではなく、漂白されて残った痛みと同胞たちへのレクイエムだ。国家の犯罪を暴く爽快感に重点を置いた犯罪小説じゃなく、アマゾン牢人という言葉から、後悔から、受け入れるしかなかった人生から解き放たれるためのけじめの儀式なのだ。だから周到な犯罪計画を一見無慈悲に進めながらも、そこに冷酷さはなくてなんていうか皆優しい。計画にもあるいは結末にも甘さがあるかもしれないが、それでいいのだ。破壊衝動からきた復讐じゃないから。日本人であるという呪縛から逃れられない衛藤、後悔を抱えていた山本、ブラジル人の大雑把さと懐の深さを受け継いでいるケイ、マフィアに拾われて育てられた松尾、それぞれの抱えていた荷物をやっと下ろすことができたんだから。

 アマゾンの大地、ブラジルという国と人間性にもくっきりとした光と影の立体感があり、同時に日本という国が浮かび上がってくるとこもすごいと思う。そしてもひとつ、実は男性作家の描く女性ってどこかリアルさに欠けるな~と思うことが結構多いんだけど、このヒロイン貴子はかなり共感できるタイプでよかった。貴子だけじゃなく、母なるエルレインも、衛藤の最初の妻も、それぞれの時代と国に生きる女性のリアリティがあってすごく自然に読めたなーと。

 とにかく一気読み。疾走感がありながら何かを置き去りにせず、むしろ拾い上げていくような丹念さ。壊さずに生かそうとする優しさと地球の裏側とつながってる大きさに、久々に強烈な読書体験ができましたです。

ワイルド・ソウル 垣根涼介(幻冬舍)
コメントを読む(2)
  by june
>漂白されて残った痛みと同胞たちへのレクイエム
いわれてみると、そういうもの感じます。ギラギラした復讐というよりも、気持に決着をつけるためのものという感じがしました。
少し前にドミニカ移民の訴訟ことをニュースでやっていて、この世界が現実のものだというのをあらためてひしひしと感じました。これを読んでいなかったら知らない世界のことだったので・・。
>juneさん  by banri
こんばんは~。風邪オチしてたのでレス遅くなってごめんなさいです;
思い返してみるに、やっぱり第一章のインパクトは大きかったなーと思います。日本人には過酷で辛い思い出ばかりなのに、それも飲み込んでしまうような大きさも感じたし。
だからか、復讐譚のはずなのに不思議と怒りとか憎しみとかって感じなかったですねえ。却ってこっちも安易に憤っちゃいけないような重みが…
でも読めてよかったです。
映画化らしいですが(?)う~んどうなんだろう…2時間で伝わるかしら…
novel | 垣根涼介
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| 日々是好日 |
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