読書の欠片ネタバレあり
08≪ 123456789101112131415161718192021222324252627282930≫10
スポンサーサイト  [Edit]
-------- --
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
スポンサー広告
|
裏庭  [Edit]
2006-06-14 Wed
 中学生の照美は友達のおじいちゃんから近所のバーンズ屋敷の秘密を聞いて育った。その「裏庭」はバーンズ家に代々現れる「庭師」によって丹精される、死に近い世界だという。第二次大戦前にそこに住んでいた姉妹や友人たちや子供たちを深く見守っていた先生の思い出を語ってくれたおじいちゃんは、双子の弟を亡くし共働きの両親が忙しかった照美にとって唯一自分を正面から見てくれる大切な存在だったから、そのおじいちゃんが倒れ屋敷も取り壊されることを聞いた照美の足は、幼い頃にくぐった屋敷への抜け穴へと向かう。そして照美の前で裏庭は再び開いたのだったー

 これは「物語」というより「お話」と言った方が近いような雰囲気だなあ~。「本」よりも「語り」に近い原初的な感じ…古事記とか民話とかに感じるような。「裏庭」に入り込んだ時から照美はテルミィになり、時間も距離もぎゅっと凝縮されたような空間で不思議な人々と出会っていくのだけれど、その存在は「個」というよりも何かの「意味」を体現してるかのよう。最初の方はアリスのイメージと重なるとこもあったりね。

 スナッフや音読みの婆たちに導かれて庭の崩壊を止めようとするテルミィの前に現れる現象や試練は、現実を見つめ受け入れて生きていくためのテルミィの心の旅でもあるけど、照美の物語というよりはもっと大きな世界の物語という気がしたな。裏庭は照美のインナーワールドでも異世界でもない。人間の意識はどっかで繋がってるみたいな説があるけど、そういう共有の精神世界をイメージして読んでました。根の国との端境のような、誰もがいつかそこを訪れ抱えていた想いが漂白されるまで留まる場所。吸収されてやがてまた芽吹いていく。そこに木を植え花を育てて丹精する庭師は、生死の循環が穏やかであるための癒し手なのかなあと。

 テルミィの傷へと降りていくのと同時に世界が変容していく。降りて降りて辿り着くのが「人は徹底して独りぼっちだ」という真実だったりそう簡単に変わらない両親との関係だったりするのが梨木香歩らしいと思うんだけど、それは自覚する前の孤独とは違うものなんだよね。自分だけじゃない、誰もが孤独さを抱えていることを知っているから逆に世界に自分ひとりじゃないことを知る。物事は対になっていて、それは循環している。個から全へ、死から生へ。そんな風に大きな流れの中にあるお話でした。

 それにしても梨木さんの世界では何故か親の影が薄いですね~。人間的にまだまだ不完全な存在というか。その代わりおじいちゃんおばあちゃんが大事な役割をしてくれますが…。「大人」になるのはそんな簡単なことじゃあないのだ。だけど無理に大人になることもない、きっと。どこか少年少女の部分が残ってるのが照美やママの場合は少し痛々しく、レイチェルやおじいちゃんの場合は魅力になるんだから時間って偉大だわ。

裏庭 梨木香歩(理論社)
novel | 梨木香歩
CM:0 | TB:0 |
丹生都比売  [Edit]
2005-10-04 Tue
 兄である天智天皇から謀反の疑いをかけられないよう吉野に隠棲した大海人皇子は天智天皇が身罷られた後、御位に即いた大友皇子と近江朝廷への不満を持つ地方豪族たちを味方につけて再び中央へ向かう…いわゆる壬申の乱前後の日本の古代史上大人物たちに彩られた華やかな時代を背景に、これは、その影にひっそりと存在した草壁皇子のものがたりです。大海人皇子(天武天皇)を父に、後の持統天皇を母に持つ草壁皇子は身体も弱く、同じ父の血を引く大津皇子の明晰な明るさとは対照的に、強い光を浴びれば儚く消えてしまうような、決して歴史の表舞台に立つことのない宿命を背負っている。あちらもこちらも、周り中燦然と輝く人々の中にあって、「影を持たない、色の希薄は人はどこに行くのだろうー」

 歴史を動かし、あるいは勝つにせよ負けるにせよそのうねりの中で生きた人々が黄金だとすると、ただ流されるしかない魂は銀。「魂の錬銀術」という作者あとがきが言い得て妙ですね。強い輝きに消されるだろう自分の運命をよく知っていてもそれに抗わず、ただ受け入れようとする草壁皇子の存在は寄る辺無くもの悲しさに満ちているけれど、それでもこの話には絶望的な悲しさはないんだよねえ。それは、両親に見捨てられたという思いに胸を痛めながら、それでも両親のために自分の身を投げ出そうとする草壁皇子の存在が、両親にとっても救いとなるから。そのために消えるのなら、その存在は無じゃないんだという魂の平安が描かれてるからでしょうか。魂の平安と言っても別に宗教的な話じゃないのですが。「大王家の二つの血の流れ」…朝日のような人々が築き上げていく歴史の影でひっそり存在した月のような人々のものがたりであり、こういう人々がきっと「強くたじろがない存在」で在り続けるために奥底に閉じ込めておくしかなかった悲哀を代わりに引き受けてくれたんじゃないかな~とか思ったり。

 というのも、愛してるのに鬼になるしかなかった讃良皇女(持統天皇)が哀しくてねえ~;このまま自分も消えるのだろうかという草壁は儚いけど、キサに導かれて消えていくことの恐れから魂を解放された分救いがある。子を喰らっても生き続けなければならない母の業の深さは歴史の闇を背負ってる分重いです><。それでもその闇まで受け入れた草壁の存在が、救いにもなり道標にもなるんじゃないかな…寄る辺ない子どものように泣く鬼と、その哀しさを感じてる草壁の魂が静謐でよかった。

 この本ではほとんど出番がなかったけど、あとがきに書いてあった「光と影のように切り離せない」大津皇子と草壁皇子の話も読んでみたいな~。エピソードは昔何かで読んだような気もするけど…ものがたりで。この時代を舞台にした物語って、なんかこう惹かれるものがあるのよね~^^

 梨木香歩(原生林)
novel | 梨木香歩
CM:0 | TB:0 |
村田エフェンディ滞土録  [Edit]
2005-06-18 Sat
 時代は明治の終わりから大正にかけて、土耳古(トルコ)政府から招聘され公費で考古学研究をする主人公・村田が下宿するスタンブールの家には理性的で公平なイギリス人の女主人、陽気なドイツ人のオットーやもの静かなギリシア人のディミィトリスに信心深いトルコ人の召使いムハンマドが集い、穏やかに、時に賑やかに日常が営まれている。冒頭ムハンマドが鸚鵡を拾ってくるところからすぐに100年前の異国の風情やゆったりとした時間が感じられて引き込まれてしまった。物語のほとんどはごく何気ない毎日を綴ったもので、絶妙な間の手を入れる鸚鵡に笑ったり、宗教や文化の違いから感じ方や考え方が違い、その全てを理解はできなくても少しずつ尊重しあったり、盗賊に襲われながら日本からやってきた研究者を看病したり、発掘現場から持ち帰った土着の神と日本の稲荷がケンカしたり。そんな中徐々に第一次世界大戦前の影が見えてきたりもするのだけど、村田自身の性格もあって本当にごく穏やかに日々は過ぎていくのだ。

 けれども、だからこそその日々が後になってどれほど貴重な、優しいものだったかが分かるんだよね…。ヨーロッパがキナ臭くなって期間終了を待たずに慌ただしく帰国することになった村田の元に、やがてディクソン夫人から彼らの消息を伝える手紙が届く。そして海を渡ってきた鸚鵡と。最後の鸚鵡の一言にはホントに泣かされたよ。国とは何か?自分にとって確かなものとは何なのか…。滞土中起こった大きな事件を描いたわけでなく、声高に何かを主張する話でもないのだけど、淡々と綴られた中にいろんな思いを感じる余地があるのがすごくよかった。心に残ります。

 村田が日本に帰ってきて「家守綺譚」の綿貫と友人であったことがわかるわけですが(いやそういや出てきてたよ…そして家守の時代も特定できるわけね)。綿貫も相変わらずだし高堂もゴローも息災で何よりです(笑)…というわけで、読む順番は家守→村田がオススメですv

村田エフェンディ滞土録 梨木香歩(角川書店)
コメントを読む(2)
  by 莉絵
 banriさんこんばんは。また、TBさせていただきます。絶妙のタイミングの鸚鵡の「友よ!」にもやられましたが、ムハンマドの死骸にとまっていた鸚鵡を発見したオットーを想像すると、また胸に迫ります。
「家守綺譚」もよかったですが、「村田エフェンディ…」の人種や信仰がちがっても、繋がり分かり合うことは隔たりがない。というラストはよかったです。
>莉絵さん  by banri
莉絵さん、こんばんは~お寄りくださってありがとうございます。
鸚鵡にはほんと泣かされましたねえ。信仰や国が違い、情勢が変わっていってもやっぱりその一言で表せる関係が確かにあったわけで。
違いは違いとしてちゃんとあるのが却って深いというか、「それでも…」と思えるのが響いたのです。
口に出さなくても伝わる想いみたいのがよかったですねー。
novel | 梨木香歩
CM:2 | TB:2 |
梨木香歩いくつか  [Edit]
2005-04-15 Fri
 図書館で読んだ本、梨木香歩の理論社から出てる童話のシリーズ「マジョモリ」「蟹塚縁起」「ワニ」「ペンキ屋」。「マジョモリ」は女の子ばっかり出てくるけどかわいくて好みだったわ^^。日本昔話風だけどズシンとした重みがあって「蟹塚」もよかった。心情的に小松の若殿とシンクロしたせいかも<重み。あと普段あんまり読まないエッセイ「春になったら苺を摘みに」をなんとなく(オイ)読了。この人ので他におすすめされてるのは「からくりからくさ」「裏庭」「村田エフェンディ滞土録 」あたり。(関係ないけど、図書館の新しい職員さんもDWJスキーだったのでいろいろおすすめしてもらったー笑)

春になったら莓を摘みに 梨木香歩(新潮社)
novel | 梨木香歩
CM:0 | TB:0 |
家守綺譚  [Edit]
2005-03-30 Wed
 梨木さんのは「西の魔女が死んだ」以来2作目なんだけど、全く印象の違う作風で、いやこれはとっても気に入りましたーv。百鬼夜行抄ちっくだと聞いていた通り、世界観や登場人物もいい感じに好みだったんだけど、まず文章がすっきりあっさりしてて、それでいて雰囲気があって。時代は特定されてないけど「今」ではない時間の流れとその土地の空気を感じるんだよねえ。「西の~」では作者が用意したファンタジーな空間に、現実から守られた、というか閉じた印象を受けたんだけど、こちらは現実との境界が曖昧で緩やかにつながった自然な感じ。こういう文章とかスタンスって好きだなあ~^^

 駆け出しの物書きを生業としながら学生時代に亡くなった親友の実家の守をしている綿貫征四郎、この青年と大人の間くらいの男が語り手っていうのがまずポイントかもー。さるすべりに懸想されても、庭に河童の抜け殻が落ちてても、狸に化かされても、そして死んだ親友・高堂が掛け軸の中から現れても、一応は驚きつつもそのまま受け容れてしまうような気の良さと安定さ、食べる御馳走よりも精神的な御馳走を喜ぶ物書きの性ともいうべき想像力と適応力がこの作風を支えてる。四季折々の植物たちと、風景に溶け込む「あちら」の世界、どちらもささやかだけど確かに在ると感じる存在感が却って豊かに世界を覆っている。

 自分に惚れたさるすべりに応えられない代わりに本を読んでやるような綿貫もだし、さも当然と言わんばかりに「河童の抜け殻です」と断言してくれる隣家のおばさんや「あちら」との境界にいるような和尚や高堂、不思議と「あちら」の生き物の面倒を見ることが多い犬ゴローなど、どこか全体にのほほんとコミカルな雰囲気を漂わせながら、でもそれがいつか渾然一体にならないのがいい。むしろ「あちら」と「こちら」は繋がってはいても混じらないもの、違う世界なのだ、と浮き彫りになっていく…うん、こーいうところが確かに百鬼夜行抄っぽい。なあなあで交わってしまうより、こういう方が好きなんだよねー。行ってしまえば戻ることはできず、手に触れられない分大切に思えるような。

 あれだけひょいひょいと、死んでからも変わらない性格のまま現れていた高堂がめっきり姿を見せなくなり、未だ遺体の見つからないその死に隠された秘密に触れた時には、その境界を思い知らされて何だか切ないような、でも綿貫がこれでようやく高堂のことを書けると思えたのが嬉しいような。「彼方へ/君と共に行かまし」…途中挟まれたゲーテの詩が、最後まで読むとああ高堂お前もそうかと思えて震えがきたなあー。選んだ道は違ってしまったけど、もう同じ時は生きられないけど、綿貫がそれを知っている限り高堂も「あちら」のものも確かに存在しているだろうから…

家守綺譚 梨木香歩(新潮社)
コメントを読む(2)
  by 莉絵
 banriさん、こんばんは。また、トラックバックさせてもらいました。梨木香歩はこれをはじめて読んだのですが、もうちょっと早く読めばよかったと思いました。
 最後の綿貫の述懐がすきです。すべてのものの存在を明かにしない、闇を受け入れる度量さのようなものが、全編に行き渡っていてえもしれない気分になりました。
>莉絵さん  by banri
莉絵さんこんばんは。コメントすれ違いになっちゃってました、遅くなってスミマセンー。
私もこれで梨木さんにハマったのです。世界観や語りの中にいろんなものの存在を許す懐の深さがありましたよね。
莉絵さんとこでも書かれてましたけど「村田エフェンディ」もぜひ読んでみてくださいね~。少女や女性を描いた心理度の高い作品群と読み比べてみるもの面白いかもです(って今私もちょっとずつ読み中なんですけどね)
novel | 梨木香歩
CM:2 | TB:1 |
| 日々是好日 |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。