読書の欠片ネタバレあり
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半落ち  [Edit]
2005-09-28 Wed
 アルツハイマーで苦しむ妻に請われて殺害した警察官は、その為人から自らも死を選んでもおかしくないと思われた。しかし実際には犯行から「空白の二日間」を経て自首し、その間のことは一切語らない「半落ち」状態…実直に積み上げてきた警察官としての自分も職場であった県警も泥にまみれることを知りつつ自首を選んだのは何故か、「あと一年だけ」この言葉に秘められた思いは何なのかー?

 この作者、上手いなあ~と思いますねえ。犯人である梶を取り調べた警察官、検事、事件を追う新聞記者、弁護士、裁判官、留置された刑務所の刑務官…それぞれの段階で事件に関わった人々の目を通して梶という人間が描かれ、それでいて語られるのは彼ら自身の物語でもある。そういう構成もさることながら、立場の違う人間たちの人生を浮き彫りにしていく手法がすばらしい。大仰な仕掛けにこだわらずストレートど真ん中なのがいいなあ~。短い中にもぎゅっと濃縮されてて、その行動も考え方も腑に落ちます。組織の中でそれが制限される現実や葛藤もリアルなら、それ故に生まれる願いや希望に救われたり…

 他人の心の中を推し量るのは難しい。だから想像や決めつけで話が進んでいくといつもホントにそうかわかんないじゃん…って居心地悪い違和感を感じるんだよね。どんなに行動を追って再構築したとしても、所詮それは再構築した人の物語でしかない。だけどこの話では、他人の目を通して語られてるにも関わらずそういう違和感を感じなかったんだよな~。もちろんそれぞれが梶の内心を想像し、その態度から物語を組み立てようとはしているのだけど、それを他人に押し付けたりはしない。あくまで「自分の中の」梶像であることをちゃんと線引きしつつ、自分の行動はそれに拠るしかないんだという責任感が感じられて大人だわ~と思ってしまった。「絶対的」真実なんて胡散臭いものを追い求めるよりよっぽど誠実だよなあと。「あの男のことはあの男にしか分からん」なんて潔いよ!

 そういう意味でラストもよかったなー。「どうだ!」と真実を突きつけるでなく、最後まで梶本人に語らせることもなく「完落ち」させてくれて。伏線が少なく唐突だったかもしれないけどそれまでに語られた梶像だけで十分納得できるものだったし、何より真相が明らかになったという以上の満足感がある。真実を暴きたかったわけじゃない。仕事としてはそれ以上関わることを許されず、心を隠しても自分の仕事を全うするしかなかった男たちが、それが仕事としては正しいと知りつつもたまには人間としての自分の心を優先したくなることもあるだろうという思いが伝わってくる。それなりに地位や経験を積み上げ、大人としての自分の中に当然のように隠されただろうアツさや青臭さが出てしまうのがなんかいいんだよな。

半落ち 横山秀夫(講談社)
novel | 横山秀夫
CM:0 | TB:0 |
クライマーズ・ハイ  [Edit]
2005-08-31 Wed
 うーむ面白かったしグイグイ読ませましたね~一気読みでした。昭和六十年八月十二日、新聞記者の悠木は翌日に挑むはずだった「魔の山」と呼ばれる谷川岳衝立山への出立直前、その第一報を受け取った。部下を不用意な言葉で失って以来デスク昇格を拒み、40才の今も「独り遊軍」として一記者に甘んじていた悠木に与えられたのは「日航全権デスク」…そうやってこの大事故に挑んだ日々が、仕事も家庭も行き詰まっていた悠木にとって次に踏み出す一歩を決めることになったのだーー

 作者自身が当時この未曾有の事故に地元新聞記者として立ち会ったということで、大部分を占める新聞社内の動向がとってもリアル。きっとこれはほとんどが本当にあったことなんじゃないかなあ~。あるいはもしこの事故で亡くなった方の関係者がこれを読んだなら、当事者との温度差に複雑な気持ちになるかもしれない…そのくらいマスコミというものの本質が描かれてると思う。いい面も悪い面も。

 凄惨な現場を見てどこかが壊れてしまった新米記者が、何度も何度もその現場へ足を運び越えていく。そんな姿を描く一方で、記者の決死の原稿や全権を預かるはずの悠木の意見が社内の政治的論理やかつての「遺産」にしがみつく上司の手でいとも簡単につぶされていく現実も。同じ社内でも決して重ならない思惑や人間関係…地元紙の意地も伝えたいという記者の思いもあんまり報われないあたり、これが完全なフィクションであれば燃え上がりかけては水を掛けられたみたいなもので読んでてどうにもくすぶってしまうと思うけど、今の場合は現実をねじ曲げて「いい話」にしちゃうわけにはいかないんだろうなあ。むしろうまくいかないところにところに個人の力の限界と、それでも「続けていく」人の姿が見える。組織がどうあろうと、その人の生き様を決めるのは個人だと思うしね。何度もつぶされながらめげず後輩の面倒見もいい佐山ががんばってんなあ~。こーいう人が組織も変えてくれたらいいよなあ、うん。山に登り続けた神沢の成長と生き様もいい。

 しかしてこれは事故当時の地元新聞社の動向をリアルに描いたというだけでなく、仕事でも親子関係でも次に進むべき道を見失い立ちすくんでいた悠木がどういう生き様を選んだのかという、むしろ個人的な物語でもあり。記者の立場に立ったり罹災者の立場に立ったり迷いの連続で揺れまくり、総括デスクとして満足のいく仕事ができたとは言えず、自分の子供にもどう接していいか分からない気の弱さを露呈し(こうして見るといいとこないな…爆)、でもささやかだけど納得できる生き方を選ぶまでの。

 しかしものすごくいろんなテーマが詰め込まれてたわ…一つ一つが突き詰めると大きなテーマでそこが読み応えあったのは確かだけどもうちょっと絞ってもよかったかなー。特にラストの「大きい死小さい死」はちょっと唐突で中途半端だったような…公私混同というか。親子関係か山に登る理由に絞ったら更にどっしり骨太だったかも?クライマーの話は自分のツボの一つだし、息子の打ち込んだハーケンにはやられたしな~(あの一ノ倉沢が本格的な岩登り初めての57才とか、現役のクライマーじゃないらしい息子に越えられるのかどうかはちょっと疑問だけど~)その辺空白の17年間をもっとじっくり読んでみたかったかな。

クライマーズ・ハイ 横山秀夫(文藝春秋)
novel | 横山秀夫
CM:0 | TB:1 |
第三の時効  [Edit]
2005-08-20 Sat
 初・横山秀夫。いやー面白かった!横山秀夫=警察小説(らしい)程度の予備知識しかなく、これは短編集なんだけど最初の「沈黙のアリバイ」を読んだ時は、こーいう純粋にミステリ!って本を読むの久しぶりだな~とか思ったくらいだったんだけど。

 表題作「第三の時効」で、おうこれはF県警捜査一課を舞台にしたシリーズなのねと。一課には三つの班があってそれぞれローテーションで事件を担当している。三人の班長は性格から捜査方法から全く違うタイプながら、いずれも高い検挙率を誇り近隣にも一目置かれるほど有能で、班長も各班の捜査員もお互いに強いライバル意識を持ってる。一班の「笑わない男」朽木の下に森や田中、矢代。二班は公安上がりの「冷血」楠見が独断専行なので部下の出番は今のところ少ないけど宮嶋に植草。三班は直感型の「天才」村瀬の下に「イヌワシの兄弟」東出と石上。話毎に主人公は異なるのだけど、班長や新人からベテランまでの各班員、課長や部長のキャラがどんどん立っていき、その男たちの人間ドラマがめちゃめちゃ読ませます、面白い~!

 「第三の時効」で見せる、楠見の冷血さに隠れる女への嫌悪の理由がいつか解かれる日がくるのか、それとも宮嶋が言うように「理由なし」なのか。森は幸せを掴めるのか。二班の捜査員が反撃の狼煙を上げる日はくるのか。
 「囚人のジレンマ」では三班がそれぞれ事件を抱えていて班の特徴も浮き彫りになり、課長と記者との駆け引きも面白い。その上で競争意識むき出しの中に勇退目前の、もうこういう情の深い刑事は現れないだろうと言われるベテランの伴内に花を持たせる男気ときたらもう。
 「密室の抜け穴」は必ずスペアを作っておくというイヌワシの兄弟に見立てたライバル関係と、どちらが生き残るに相応しいか見極めてるような親鳥の冷静な目が密室状態も相まって緊張感たっぷり。
 「ペルソナの微笑」。矢代のキャラもいいねえ。引きずってる過去があるせいかここでも朽木が親鳥に見える…。ラストの笑みはあれ以来初めての「本当の笑み」でしょう。飛び立った、って感じです。
 「モノクロームの反転」では同じ事件に投入された一班と三班の情報集めの短期決戦も見物。どちらがどの手掛かりを押さえ、より早く真実に到達できるかー班長も部下たちもやる気満々。なのにまたも最後に朽木がやってくれるんですねえ~。最後の村瀬と朽木のすれ違いざまの短い会話も男だわ。

 てな感じに、短編にも関わらず誰を主人公に据えて書いてもかなり内面の濃いドラマが展開されるんですが、事件の謎とその解決を巡るミステリとしての出来もこれまた秀逸。どの話も人間ドラマと謎解きが絶妙に絡み合っててよかったなあ~。文章もパキッとしてて読みやすく好みv
 どの男たちもライバルがひしめく緊張感に耐えながらそれでもやってやるぜ的気力が漲り、何より犯罪を憎む心がある。それは「正義」なんて胡散臭いものじゃなく、純粋な「怒り」だ。それがあるからこそ、一見出世や手柄を巡って常に競争し隙あらば蹴落とそうという気持ちは誰もが持っているにも関わらず、ギスギス殺伐とした雰囲気にならないのだ。
 これ他にもF県警のシリーズあるのかなあーまだまだこの男たちの話を読んでみたいです。

第三の時効 横山秀夫(集英社)
novel | 横山秀夫
CM:0 | TB:0 |
| 日々是好日 |
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