読書の欠片ネタバレあり
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地下鉄に乗って  [Edit]
2006-10-31 Tue
 浅田次郎の昔の作品は文庫で結構積読状態になってるんですが、映画化記念でチョイスしてみました(映画行かないで原作読むやつ)。読んだと思ってたけどまだだったのね…

 戦後裸一貫から叩き上げた繊維業界の雄、小沼佐吉の次男として生まれた真次は、その父に反発して家を出、40歳を過ぎた今は地下街にある小さな下着会社の社員として、スーツケースに商売物を詰め込んで一日中地下鉄と地下街で毎日を送っている。そんなある日、父親を嫌悪しながらも一番父に似ていると言われる真次は、地下鉄の出口から東京オリンピックの年の新中野に迷い込むーそれは兄の死んだその夜だった…
 自分の人生の一部とも言える地下鉄が、真次と愛人のみち子を過去へと連れていく。戦後の闇市で、満州の戦場で、出征前の地下鉄で、平和で美しい昭和初期の銀座で、それぞれの時代の父と出会った二人が最後に見たのは…

 映画の予告や宣伝で見た大沢たかおがすごくいい感じだったんだよね。堤真一演じる息子がタイムトリップして闇市の時代を生き抜いてきた父親(大沢)に出会う、と。現実では老いていてもう関係の修復も不可能な父子が、自分より若い父とその生きてきた時代というものを実際体験することで、今までとは全く違う父の顔が見えてくるんだろうなーと。短い画面からも、疲れてる堤と対照的に大沢の力強さみたいなものが伝わってくる気がして、読む前からある程度話を勝手に想像してた節があるんだけど…うーむ、微妙に期待と違ったかな…

 さあっと足元を砂が流れるように切り替わる現在と過去に違和感がないのは浅田次郎の筆力でしょう。まして過去の風景や人間たちにあれだけ手ごたえがあるのはさすがとしか言いようがない。焼け野原になった街で、飢えで人々がみな同じ目をしてる中で、とにかく儲けることを考えながらもその目はひたむきな熱意と純粋な未来への希望を湛えているアムール。生き馬の目を抜く世界で誰も信用しないで生きている反面で面倒見のよさや律儀さを持っている姿は、想像どおり魅力的なのだ。華やかな人々が行き交う賑やかな銀座を、重い荷物を抱えて働きながら、いつかメトロに乗ってあちこちに行くんだと小さな胸を温めていた少年時代、満州で民間人とともに敵地に置き去りにされながらひとり義を通そうとした軍隊時代。時を遡りながら初めて知る一人の人間としての父の姿には期待通りぐぐっと引き込まれて…だからこそ、最後男と女の哀しい物語に着地して、あ、あれ?と…思っちゃったみたいです;最後まで父子の、ひいては家族の物語だったらバッチリストライクゾーンだったんだけどな~~。ベタでもいいんです…。父のように生きていくだけという真次の決意は分かったけれど、父も含め小沼家のその後が見たかったな、と。妻との間も別に冷えてるわけじゃないのに、それでもみち子をというのがイマイチ分からなかったせいもありますが。

 とは言え、やはりこの行間に滲み出るやさしさは浅田次郎の本領だよなー。↑なわけでオチはともかく、そこに描き出される人間の姿、どん底にあって力強く響く言葉には何度も揺さぶられるものがありました。真次の生い立ちや家族関係には、他のいくつかの物語のように作者がぽつぽつと語ったことのある過去と重なるところがありますよね。解説を読んで、それでも小説家という夢を諦めず、やさしさを描くことができる浅田次郎ってすごいと改めて思ったりもしましたよ。

地下鉄(メトロ)に乗って 浅田次郎(徳間文庫)
novel | 浅田次郎
CM:0 | TB:1 |
憑神  [Edit]
2005-11-08 Tue
 部屋住みの次男坊ながら文武に優れ誰よりも武士らしい人格を備えていた別所彦四郎は、御徒士の実家より大身の組頭井上家への養子入りが叶ったものの、義父に嵌められて離縁されてしまう。出戻りとして出役も居場所もなく鬱々と過ごす日々に、ふと打ち捨てられた祠を拝んでしまったところが、知らぬ間に貧乏神と契約を交わしてしまったのだった。しかもそこは出世祈願に霊験あらたかという三囲稲荷とは一字違いで大違いの三巡稲荷、貧乏神のみならず三柱の憑神を呼び寄せてしまうことにー

 幕末が舞台ということで読み始めどっしり骨太の時代ものかと思いきや、どっか俗っぽい貧乏神や疫病神とのやり取りや押し付け合いが割とあ・軽~いノリだったです(笑)。が、これがドタバタギャグやシュチュエーションコメディかというとそうでもなくて、実は武士が存在意義を失い徳川の世が内側から崩壊していくあの時代というもの、将軍の膝元でありながらすでに政治にも経済にも実がなくなってきていた江戸という場所、その時代と場所の境目で生きる人間の姿が浮き彫りになってるのですねえ~。憑神云々はともかくああ八百年続いた武士の世の終わりってこうだったんだろうなあとなかなか深く納得してしまった。新撰組や勤王の志士、勝先生や最後の徳川幕府を表舞台とするならば、とっくに世の中が代わっていこうとしていることに気が付いていた町人や最後まで徳川の臣であろうとした一人の男の、これは裏舞台の物語なのだ。

 「御家人である以前に、日本国民だとはなぜ思えねえんだい」…彦四郎の昔なじみにしてかの三囲稲荷に願って出世を果たしたという後の海軍奉行榎本さんのお言葉ですが。そっかー勝先生といい二人とも根っからの侍ではなかったからこそああやってすっぱり武士の世を終わらせて新しい世の中を造れたんだなあ。すでに名ばかりになった江戸の武士の矜持を見れば必然の流れでもあるし、この時代にはやっぱりこの人たちが必要だったんでしょう(あ~大河を思い出す…逆に武士は生きていけないのよねTT)。彦四郎は徳川の世と武士であることに拘っているけれど、人の気持ちも時代の流れも急速にズレはじめてて全編通して空回りしているところに何とも「幕末の武士の哀しさ」を感じてしまった…。世の中のことが見えてる彦四郎には、榎本の言う事も武士の世が内部から終わろうとしていることも分かりすぎるくらい分かっているのだけど、それでも武士としてしか生きられず、武士としての死に所を見つけるしかない。愚直と言うには自分でも建前なのか本心なのか分かってないようなとこもあって結構揺れてるし、それでもそこに辿り着くのが不器用に過ぎるけど、でも最後の負けっぷりが肝心ってのは悪くないと思った。「掉尾を飾る武士道が輝かしければ輝かしいほど、それを打ち壊して咲く新しい世は強くたくましくなる」…行為だけを見れば馬鹿げていても、その心意気はやっぱり天晴だ。

 幕末の武士の哀しさに添えられた、当世の若い鍛冶による刀がもう一つの悲哀を感じさせてねえ。「侍の権威が地に落ちているのに、刀ばかりは古刀の名手に迫る技倆が続々と現れる」…多分実際にそうだったんでしょうが、それだけの技倆と心を持つ若き刀鍛冶たちにはこれからの世は辛いだろうなー。「心技の限りを尽くす」…そこにも彦四郎と同じく、滅びる前に自分の本分を全うさせようとする覚悟が見て取れて、語られなかったもう一つの徒花の物語に思いを馳せたりしましたよ。

 まあ「壬生義士伝」ほど愚直でもなく、「プリズンホテル」ほど笑いとペーソスに満ちてもいなかったけど、あと肝心の(タイトルの)「憑神」との戦いの方はあんまり残らなかったけど、決して表舞台ではない、ごく一般庶民レベルの「幕末」の真実突いてるよなーと思いましたです。

憑神 浅田次郎(新潮社)
コメントを読む(2)
浅田次郎ファンです  by さり
TBさせていただきました。
「憑神」おもしろかったです。軽い部分と重い部分がバランスよく、さすがに上手いなと思うできでした。神様の中では、疫病神が一番個性的だったかも。あと、変にへこたれない兄上もよかったです。
彼のような武士が、実際いたのだと信じたいですね。
>さりさん  by banri
はじめまして、コメントありがとうございますー。週末レスできませんで遅くなってごめんなさいです。
「憑神」、普通は語られることのないこの時代の裏舞台の話という感じで、もうひとつの江戸末期の空気が哀しくもリアルで残りました。
さりさんの感想も読ませていただいて、引っかかるところが近いな~と嬉しかったです。
軽い中にも重い中にも随所に浅田節が唸ってましたね~
novel | 浅田次郎
CM:2 | TB:1 |
椿山課長の七日間  [Edit]
2005-10-11 Tue
 叩き上げのデパートマンとして、不可能と言われた予算さえ達成するために働き続けた椿山課長は、正念場であるバーゲン初日の夜に急死した。そして再び気が付いた時、そこはいわゆる「冥土」…高度にシステマティックで多分にお役所的なそこでは、生前の行いに関わらず相応の講習を受け「反省」ボタンさえ押せば誰でも極楽往生が可能になっていた。が、心残りの多すぎた椿山はボタンを押さず仮の肉体で現世に戻る特別措置を要求したのだったー

 テンポの良い、よく考えてみればブラックなんだけど笑わずにはいられない会話がプリズンホテルを彷彿とさせますねえ~。何しろ死んでから自分が大事だった人の本心や、自分が見ていたものとは違う現実を知るってはかなり苦い。だけどそこは浅田次郎、決して後味のイヤ~な苦さじゃあないんですな。仮の肉体が現世の自分とは180度正反対の見かけ&性別という馬鹿馬鹿しさに紛らせつつ、それが辛い現実を受け入れ昇華するのに上手く一役買っている。苦さばかりじゃない、そこにあっただろう相手の葛藤や愛情までも感じさせてくれるんだから、なんで自分だけが…という自己憐憫に陥れる訳もなく、ただ自分が愛した人たちの幸せを祈らずにはいられないのだ。自分の幸せを祈ってくれたひとのためにも…。苦労を苦労と、不幸を不幸と言わないところが浅田文学の肝なんじゃないかと思う。歯を食いしばってぐいっと前を向く、気持ちの強さとやさしさにはいつも泣きのツボを押されます。

 現世に戻ってくるのは他に古色蒼然としたヤクザの親分だった武田(本名)と、椿山の息子と同じ小学2年生の蓮(戒名)。この二人の話がまたいいんだよな~。死んではじめて「幸せ」が何かということを考えた椿山に比べると、この二人は生前からいつもそれを考えながら生きてきたんだと思う。何が自分にとっての幸せなのか、そして自分がひとにあげられる幸せは何なのか…。特に親分サイドの話はよかったな~子分たちが親分の教えを胸にしっかり刻んで生きてるのが泣かせます。残してきた子どもたちがちゃんと生きていけることさえ見極められれば、「存外幸せな人生だった」と清清と言える親分が侠だよ~う。仮の姿の紳士も良いけど、伝法な地の親分がまたカッコ良いのです。

 蓮と椿山の息子・陽介サイドも可愛らしくも哀しくてよかったす。頭が良すぎて大人びてるけど、やっぱり大人が守ってあげるべき存在なんだってことを椿山もおじいちゃんも親分も知ってる。だからこそ陽介の進む道にも蓮の進む道にも希望があるんだよね。惜しいな~生きてたらいいコンビになれただろうに…。こと恋愛に関してはローマンティックな浅田節も、大人の場合は読んでてたまに照れることもあるんだけど、この二人のファーストキスは素直にキレイなシーンだと思ったしね(中身をあえて考えなければ…笑)

椿山課長の七日間 浅田次郎(朝日文庫)
novel | 浅田次郎
CM:0 | TB:0 |
天切り松闇がたり 昭和侠盗伝  [Edit]
2005-08-17 Wed
 三巻でシリーズ最終かと思ってたけど、出ました四巻。時は大正から昭和へと移り、子供だった松も26。でも親安吉親分や寅兄ィも相応に年をとったけど、それ以上に時代の空気も変わったなあー。十数年前の、彼らの生き様が映えるどこか粋な豊かさは軍国主義に取って代わられようとしていて、別の何かの手で自分の人生が決められ流されていくような予感を孕んだ時代。そんな時代にあっては彼らの胸がすく活躍の場も少ないようなのがほろ切ないですが、それでも流されない、自分なりの真っ当さを貫く彼らの話はやっぱり良い~。

 表題の「昭和侠盗伝」はどこかで読んだような?と思ったらドラマの原作になったやつじゃないかな。ドラマの細部は覚えてないけど(オイ)松が「天切り」の二ツ名を東郷元帥にもらう話でした。紙切れ一枚で人の命をかっぱらい、その死を讃える道徳を押し付ける「善」に対する「悪」党の大仕事。おこん姐さんと常兄ィの本領発揮の鮮やかさに惚れ、親分の啖呵に惚れ惚れv。そして寅兄ィの、自分たちが終わらせたと思った戦争に子供たちがまた駆り出され意味のない生死に立ち会わなければならない苦しさに涙…。国や軍のトップにもその現実を良しと思っていない人はいただろうに、動き出した流れを止められない現実にも…。そして衝撃の栄治の現在にも~~うわ~~ん;

 「日輪の刺客」「惜別の譜」も二・二六前後の政治や軍の流れを反映した話なんだけど、それに関わる親分や兄ィの態度が一本筋が通ってる。「天下国家を変えるような仕事はするな」「日蔭者の身でお天道様の定めた道に四の五の文句をつけちゃならねえ」…だからといって面白がって傍観なんてことは決してしないわけで。それに翻弄される人を見る目の優しさ、どうであっても自分の生き方を曲げない覚悟が切なくも深い。こういう話になると常兄ィの時代を読む目と、同じ女に対するおこん姐さんなりのエールが光ります。

 切ないと言えばこの巻じゃ何が切ないって黄不動の栄治の粋でいなせな姿がほとんど拝めないこと。唯一「王妃のワルツ」で王子さまで大人な魅力を魅せてくれるけど…やっぱりサミシイよーう><
 「尾張町暮色」はまたおこん姐さんの純情とそれも越えて一人でも真っすぐ立つ姿がぐぐっときて好きな話。ラストも映画みたいだし(松も兄ィたちの教育行き届いた振る舞いがv)現代で語り聞かせてる本庁の女性刑事が元気になってくのも何かいいしね。

 それにしてもこの話を締めてるのはやっぱり安吉親分だよねえ~。「てめえの身ひとつの辛抱ならいくらでもせえ。だが、他人の辛抱を見て見ぬふりしちゃならねえ。それが恥だ」これが全てを語ってるかもね。

天切り松闇がたり (第4巻) 浅田次郎(集英社)
novel | 浅田次郎
CM:0 | TB:0 |
| 日々是好日 |
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