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夜のピクニック

 実は読む前、地元FM局の本のコーナーで、「(いろいろ賞取って評判だけど)どの辺が面白いのか分からなかった」と言われてたとゆー話を聞いてたのとユージニアの後だったんで(笑)どうよと思ってたんだけど、いやーこっちは私、すごーく面白かったv。「どの辺が?」ってのは多分「ドラマが何も起こらないじゃん??」ってことなんだろうな~。全編ただ歩いてるだけだからそれは確かにそうなんだけどね、でも高校生ってのがポイント。恩田さんの描く高校生が好きってのもあるけど、歩く前と後では全然違ってるんだよ。それが可能な年代でもあり、この時この場所だから何かが動き出すという非日常空間があって引き込まれるんだよな~~。ただ歩いてるだけでこれってすごい。

 歩行祭。全校生徒がわずかな仮眠を挟んで24時間歩き続ける過酷な行事でありながら、3年生の時には誰もが最後まで歩き通せず脱落するのを涙ながらに拒むという、高校生活を締めくくる最後の行事でもある。実際に恩田さんの母校で行われていた行事だという話だけど、ただ自分の思い出を綴っただけでは決してない。そこにはホントにどこにでもいそうな高校生たちがいて、こんな風に友達や好きな人のことが大半を占めてたよなあという懐かしくなるような想いがある。あくまで「物語」、作者の話じゃなく彼らの話なのがいいv。そしてこれがティーンズ小説なら主人公目線の恋愛バナになるとこだけど、恩田さんはその誰からも少し距離を置いたところから見ていて、その距離感がやっぱり今の自分に近くて入りやすいのかもね。眩しいよーう(笑)

 メインとなるのは、死んだ父親の浮気相手に同じ年の子供がいるという子供にとってはヘヴィな事実を、それまでその存在を無視することでバランスを保って来た融と、むしろ少しでも近づきたいと思ってる貴子の関係の変化で。高校3年ではじめて同じクラスになって以来、その間に漂う微妙な緊張感はむしろつきあってると噂になるほどで、意識はしまくってるわけだけど兄弟だと認めたことも言葉を交わしたこともない。敵意とも言える表情を見せる融に貴子はこの歩行祭の間にもし一言でも彼と話ができれば…と自分にささやかな賭けをする…

 それぞれに3年間を過ごして大事だと思える友人に出会い、それでも決して全部は見せることのなかった自分を、普段なら家に帰って一人でいる夜の時間に友達といる非日常と、ひたすら歩き続けて真っ白になっていく頭と心がさらけださせてくれる。普段言わない言葉、見せない表情…それが零れることでそれまで頑なだった心がほぐれたり、考えるのを避けていたことを別の視点から素直に見ることができたり。たった一晩で自分を知り、それまで見ていた世界より一回り広い世界を知るその変化は劇的だ、「ドラマがない」なんてとんでもない。ガード固かった融が忍や貴子をテリトリーに入れる、昨日まで不可能だと思っていたことがするっと可能になるのには何だか泣けてしまう、嬉しくて。友達との何気ない会話やほのかな恋心(かわいいぞ忍v)もいいんだよなあ~~。読んだ後のこの爽やかな満足感。あー読んでよかったv

 しかし映画化されるそうですが…これは映像で見るとどうなんかしら(歩いてるだけ・笑)私的には文章のがぎゅんぎゅん来そうな気がしますー。

夜のピクニック 恩田陸(新潮社)

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banri

新刊・話題作は追わず読みたい本を読みたいように読んでいます。
濫読に非ず。傾向は偏り気味。
TBの際は一言コメント推奨v